AI生成画像は野鳥観察を変えてしまうのか?(前編)
今や生活の中で身近な存在になっているAI(人工知能)。鳥見と結びつくイメージは“今は”薄いかもしれない。ただ、よくも悪くもAIが鳥業界に今後影響することは避けがたいようだ。AIで何が起きるのか知っておいて損はないだろう。
文・写真:スティーブン・メンジー(Menzie, Stephen)
翻訳:平岡 考
※本稿はBIRDER2025年4月号に掲載された同名記事の再掲載であり、2024年7月に英国の野鳥雑誌「British Birds」の「BB eye」のコーナーに掲載された下記記事の翻訳。本稿で掲載する画像はすべてAIを使って生成、加工、あるいは編集されたものである。
・Menzie, Stephen 2024. AI-generated images and their impact on birding. British Birds 117: 346–352.
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近年、我々の周りでは、好むと好まざるとに関わらず、至るところでAI(Artificial Intelligence,人工知能)が働いている。例えばスマートフォンでは、文字を入力する際に予測変換が働いているし、癌の専門医は画像診断システムに助けられている。そしてAIは、野鳥観察の世界にも入ってきた。あまり目立たない使用法が写真加工だ。いくつものソフトウエアにAIが組み込まれ、写真からノイズを除去したり、画像の鮮明さを増したりするために使われている。しかし、野鳥観察の世界におけるAI利用のうちで最もよく知られ、使われているのは、コーネル大学のアプリ、マーリン(Merlin)のような、画像や音声から種の識別を助けるものかもしれない。そういった識別アプリのよい面や悪い面については、それ自体が1本の記事となるような内容だろう。しかしここでは、近年、AIで画像を生成したり、極端な加工をしたりすることが日々容易になってきていることに注目したい。そしてそれが野鳥観察にもたらす意味について考えることにする。
しばらく前に、SNSで、「クジャク(インドクジャク)の赤ちゃん」という画像が流れていた(※1)。それは、人の手のひらに乗っている小さな鳥で、光沢のある青い羽衣が全身にそろっており、大きくかわいい眼をしていた。鳥のことを多少知っている人なら、この写真がニセモノであることはすぐにわかる。だが、そうでない人にとって、この写真は非常に魅力的なものに映り、その結果、何千もの賞賛のコメントが寄せられたのだ。問題はAIソフトウェアでできることが文字通り日々増えており、自分自身で画像を生み出すことがどんどん容易になってきていること、そしてその結果、AIで生成された画像の特定がますます難しくなってきていることだ。羽毛の生えそろい方も体形もありえない「クジャクの赤ちゃん」は誰が見てもおかしいと感じるだろう。しかし、昨今作り出されている画像は、AIで生成されたことに気づくのがはるかに難しい。AIで生成された本当にそれらしい画像を目の当たりにすると、多くの読者が驚くことだろう。
何もないところから鳥を生み出す
Adobeの画像編集ソフト、Photoshopの最新版は、AIで画像を生成するにあたり、参考になる画像を与えると、質感や色合いをいっそう“それらしく”させられる。例えば、筆者はイソシギを参考画像として与え、Photoshopに「現実にありそうなスタイルで作られた、冠羽のあるシギ」の画像を作り出すように指示した。できた画像【図1】は、“実在するどの種でもない”ということを無視するなら、びっくりするくらい本物らしくできている。すべての羽毛はまずまず正しい位置に生えているし、羽衣のパターンと色彩は実在する多くの種に近い。もしも、これまで訪れたことのない海外の地域の図鑑をパラパラめくっていて、この鳥が「クサシギ属のシギの一種」として描かれているのを見たら、我々の多くは何も感じずに見逃してしまうのではないだろうか。そしてもちろん、こういったAIで生成された「種」が1枚の写真だけで本物と認められることはないだろうが、画像を見たバーダーはこれが何の種か識別しようとして、頭を悩ませてしまうかもしれない。

参考となる画像がなくても、PhotoshopのAIはそれらしい画像を作り出してくる。【図2】はPhotoshopに「雨の日にヒマワリの花で採食するフィンチ(アトリ科の鳥)の一群」を作るように指示して作られたものだ。注意してほしいのは、ゼロから生み出されたのは鳥の画像だけでなく、画像すべてということだ。作り出された鳥が実在の種に当てはまらないのは確かだが、とはいっても全体の形や羽衣の特徴の組み合わせ(白い翼帯と、褐色、灰色、ピンクからなる、いかにもありそうな羽衣)はフィンチの図として非常によい線をいっている。よく見ると左から2番目の個体はまともな形になっていない塊に過ぎないし、左端の個体は左足がありえない方向に曲がっている。また、ヒマワリの花と茎の位置関係もちぐはぐだ。とはいえ、全体として見ると、Photoshopによって作られたこの画像は、あら探しするつもりで見るのでなければ、実際の光景を写したものとして通ってしまいかねないレベルのものになっている。

見た場所を偽装する
だいぶ極端な例を挙げてきたが、AIソフトウェアは“もっとソフトな”画像加工にも使える。手はじめに、以前筆者がオーストラリア東部沖で撮影したアカアシカツオドリをPhotoshopの「生成拡張(Generative Expand)」の機能を使って「ドーバー海峡の白い断崖」【図3①】と「イングランド北西部のブラックプールの保養地の海岸線」【図3②】を背景にするように配置してみた。こういった加工はもちろん、従来の編集ソフトでも可能だったし、さらにいえば,編集ソフトがなかった時代でも、よく切れるナイフと確かな腕があれば可能だった(※2)。しかし、AIの編集機能によって、こういったインチキな背景を加えることは、15秒ほどでできるようになってしまった。もちろん、この画像が、いかなる鳥類記録委員会をも説得することはできないことに変わりはないとしてもだ。

さらに進んで、Photoshopでもう少し細かい指示を出して思ったような画像を作ることは、少なくとも現段階ではまだやや難しい。特定の種名や場所を指定して生成する指示を出してみると、AIはまだ苦労する。例えばPhotoshopに、「ティッチウェル(※3)の淡水湿地のウズラシギとそれを観察するバードウォッチャー」という指示を出してみたところ、生成された画像はいくつもの点でありえないものだった【図4】。
※1:(訳注)インターネットで“クジャク 赤ちゃん AI”で画像検索するとそういった画像が出てくる。
※2:(訳注)デジタル画像ではなく、紙にプリントした写真を切り貼りすることを指している。
※3:(註注)ティッチウェル[Titchwell]は、イギリスのノーフォーク郡にある鳥類生息地。ヨシ原、塩水と淡水の湿地、砂浜などがあり、王立鳥類保護協会の自然保護区がある。